顕微授精・胚移植治療を受ける方へ

 

1)顕微授精とは 

 体外受精をはじめとする生殖補助医療はもう30年以上の歴史を持ち、不妊治療にとって欠かせない治療となっています。1978年にイギリスのエドワーズ先生が体外受精を成功させて、卵管が通っていないなどの卵管因子による不妊カップルに多大なる恩恵をもたらしました。しかしながら体外受精で受精しない方々がかなり存在しました。

 顕微授精は1992年ベルギーのパレルモ先生が発表した方法で、ガラスの針で精子を卵子のなかに注入します。それまで受精の起きなかった方々への効果は著しく、顕微授精はあっという間に世界中に広がりました。いまでは多くのカップルがこの方法でお子さんに恵まれています。

 

 日本産科婦人科学会登録・調査小委員会によれば、日本における2014年の新鮮胚を用いた治療周期総数は通常の体外受精88888周期顕微授精144247周期でした。

 出生児数は通常の体外受精が4791人、顕微授精が5557人でした。

 移植あたりの妊娠率は通常の体外受精が23.0%、顕微授精が19.6%でした。

 妊娠あたりの流産率は通常の体外受精が26.4%、顕微授精が27.6%。

 移植あたりの生産率は通常の体外受精が16.0%、顕微授精が13.4%でした。(日本産科婦人科学会 登録・調査小委員会 http://plaza.umin.ac.jp/~jsog-art/

 

 技術の進歩に伴い妊娠率が向上してきたため、今までのようにいくつも胚を戻していては多胎が増加する傾向にありました。そこで現在では「単一胚移植」といって、原則1回に1つの胚を移植するようになりました。また出生児の長期予後についても、積極的に状況を把握していくことが求められており、生殖補助医療は単に妊娠させるだけの治療ではなく、妊娠・分娩の安全性をはかり、出産した児の長期健康状態をフォローアップしながら行う治療となってきました。

 

2)適応

 顕微授精とは、受精の起きないことが不妊の原因と考えられるカップルに対して用いられる治療法です。(男性不妊を含む)

精子の数が少ないかあるいは運動率が悪く、通常の体外受精では妊娠の確率がほとんどないと考えられるカップル、または通常の体外受精をして受精障害の見つかったカップルが対象となります。

 

3)具体的な方法

 顕微授精治療でどんなことをするかというと、

1. 卵子をとって (採卵)

2. ガラスの針で精子を卵子のなかに注入して (顕微授精)

3. 命が始まったらそーっと子宮内にもどす (胚移植)

  (卵子と精子が一つになって命が始まったものを「胚」といいます。)

  ということをします。


       ガラスの針で精子を卵子のなかに注入するところです。

 

 2.の部分だけがいわゆる一般的な「体外受精」と違いますが、他は同じです。

「体外受精」では媒精といって、卵子を入れた培養液に精子を入れて精子自身の力で卵子を授精させることを目指しますが、顕微授精は精子を1つ(ガラスの針で)人工的に卵子に注入します。もちろん良くないこともあります。

 

1. 卵子を得るために針を刺さなければならない。

2. 卵子を複数個得るために排卵誘発をかけるが、想定通りに行かないことがある。

3.お金がかかる。

  ここまでは「体外受精」と同じですが、

4.卵子に針を刺さなければならない。

5.卵子に精子を注入したからといって、必ずしも受精するわけではない。

ということが顕微授精では加わります。(そのかわり「体外受精」では受精が起きない場合でも 受精させることができるかも知れません。)

 (皆さんが実際にすることは、通常の体外受精と同じです。)

 

さて実際にどんなことをするか、というと。。。

 

 当院には日本不妊カウンセリング学会認定のカウンセラーがおりますので、顕微授精実施前にカウンセリングを受けていただきます。

 顕微授精の治療周期に入る前に「胚移植の時に使う柔らかいシリコンチューブが子宮にスムーズに入るか」と、「貧血や肝機能の異常がないか」、そして「精子の状態」を見ておきます。(旦那さんの肝炎等の感染症の検査もしましょう。顕微授精する際に精子は洗浄しますが、もし旦那さんが肝炎等を持っているとそのウィルスが奥様、そしてお子さんにうつる可能性があります。。。)

 検査に異常がなければ、生理周期や、ご都合等を考えあわせて採卵の目標日をきめます。(採卵の日には旦那さんにも午前中お休みいただいて来て頂きたいと思っています。)この採卵予定日から逆算して、注射を始める日、薬をのみ始める日等を決定します。

 

 顕微授精のための排卵誘発法はいくつかあります。点鼻薬を使う方法は中途半端な排卵をしっかり抑えてくれるのですが、卵巣の反応が悪い人はますます悪く、反応のよろしい人は逆に過剰反応を起こすことがあるとされています。

最近では刺激前の抗ミュラー管ホルモンの結果でどの方法がよいか選ぶようになりました。

 ロング法と呼ばれる方法では、注射を始める前の生理が来る更に1週間ぐらい前から点鼻薬を使いはじめます。(顕微授精の前の周期から避妊をお願いします)(スプレキュアなら一日2回左右の鼻腔に1回ずつ、ナファレリールなら1日2回片方の鼻だけに)そして、採卵予定日から逆算した日からhMGの注射を開始します。途中超音波を見ながら注射量を調節します。(日曜祝祭日も午前は10時から12時まで、夕方は火、木、土、日祝祭日と6時半から7時半にも注射の予約をお受けしています)なお、超音波を見ない日の注射は、お近くの医療機関にお願いすることもできます。

卵巣刺激の反応が十分でなかったり、過剰だった場合には、採卵をキャンセルさせていただく場合があります。 ショート法と呼ばれる方法では、お薬を飲み準備をして、それで来た生理の1-2日目から点鼻薬を使いはじめ、(採卵までの期間によっては、違う薬をのんで、生理がもう1度は来ないことがあります)3-4日目から注射をはじめます。

 


             ロング法の一例です。

 

  アンタゴニスト法では、(GnRHアンタゴニストという注射薬を使います〜うちで使っているのはセトロタイドという薬です)お薬を飲み準備をして、採卵予定から逆算した日より毎日注射をします。途中卵胞の大きさ、必要に応じて血液検査をして、排卵が近いと判断されたら今までの注射に加えて、アンタゴニストという中途半端に排卵をしないようにする注射が始まります。アンタゴニストは27時間ぐらいしか効かないので、だいたい同じ時間にうつ必要があります。夕方がお勧めですが、夕方でなければいけないわけではありません。(アンタゴニストが始まると、今までうっていたhMGの注射を増量します)

 加藤法(クロミッド併用法)では、お薬を飲み準備をして、採卵予定から逆算した日よりクロミッドという飲み薬の排卵誘発剤を使い、注射を81012日目ぐらいにします。注射が少ないので、来院も楽ですし、体や卵巣への負担も軽いとされていますが、採卵できる卵子の数は少なめになり、また、排卵を押さえる力が弱いために、排卵してしまって卵子がとれないことが10-20%あるとされています。(なるべくそのような事態を避けるためにホルモンの検査などをしますが、避けきれるわけではありません)


    加藤法の一例です。

 

 寺元法(クロミッド併用変法)では、基本的には加藤法と同じでクロミッドという飲み薬を使いますが、排卵誘発剤の注射を(クロミッドの4日目より)毎日します。注射を多くすることで加藤法に比べてとれる卵子の数が多めになることを期待します。

 

 採卵2日前

 卵胞が十分に発育したと判断されたら、hMGの注射と中途半端に排卵しないように抑える薬(点鼻薬など)はおしまいになり、(点鼻薬はこの注射の日の朝まで使います)夜8時頃にhCGの注射を行います。(ゴナトロピンという名前かもしれません)(排卵と卵の成熟のタイミングをとる注射です。)2日後が採卵の予定になります。旦那さんのご都合を再確認して下さい。(顕微授精には精子も必要です。精液だけ奥さんにもってきてもらってもいいのですが、ときおり(その日だけ)精子が極端に少ないことがあります。そのようなときは追加の精子が必要になりますので、できれば旦那さんに来院していただきたいと思います。)

 

採卵当日

 朝起きてから一切飲んだり食べたりしないで、朝8時ちょっと前(または9時前かもしれません)においでください。

旦那さんにも来て頂きたいのですが、まずはおうちで精液をとってきて下さい。(精液所見が不良な場合はこちらに来てから再度採取をお願いする場合があります。)

 採卵は午前8時〜10時ごろに概ね30分位で終了します。抗生物資の点滴をしながら、超音波ガイド下に卵胞を確認しながら針を刺して、卵胞の中の卵子を取ります。(すべての卵胞から必ず卵子が1つずつとれるわけではありません)

麻酔をかけておこないます。点滴から眠り薬を入れて採卵する方法と、局所麻酔でする方法があります。局所麻酔の良いところは何をしているかわかるところなのですが、ちょっと痛いかもしれないのと、何をしているかわかるのがいやという方もいらっしゃいます。また、卵巣が子宮の向こう側にあったりして、局所麻酔だけでは痛そうな場合は、眠り薬で採卵する方法をお勧めしています。術後はふらふらしますのでしばらく休んでから帰っていただきます。なお、当日車の運転などはなさらないで下さい。また当日はお風呂でなく、シャワーにして下さい。

(感染予防のために抗生剤がでます。)


採卵の2日後(日曜祝日の場合は次の日にお願いします。)

 午前中に電話して、受精卵〜胚の様子をお尋ね下さい。

2つ以上の良好胚がある場合はまだ胚を戻さずに培養を続けます。多くの場合、採卵5日後まで待ち胚盤胞で戻しますが、5日目でなければいけないわけではありません。なぜ待つのかというと、どの胚が一番子供になりそうかなるべく長く様子を見るというのが目的です。良好胚が1つしかない場合には、5日目まで待ってもその1つを戻すかどうかだけで、特に待つ意味はありません。(胚培養の途中で成長が止まるかもしれないので、待つことも多いですが、)早く子宮に戻した方が妊娠率が良かったという研究もあり(!)どちらが正しいかは難しい問題です。どちらにするか相談しましょう。

 

胚移植(採卵御5日目のことが多いですが、上記の状況によります)

 胚移植の時は膀胱に尿を貯めて、内診のときのような体勢をとっていただき、子宮の入り口から細い柔らかなチューブで子宮の中に胚を戻します。このとき、チューブの位置を確認するためにお腹の上から超音波をみますが、膀胱に尿が貯まっていないとよく見えません。条件がよければ胚移植自体はすぐに終了します。麻酔は使用しません。移植後ちょっとだけ安静にします。

 多胎を防ぐため胚移植は原則1個とさせていただいています。(日本産科婦人科学会の決まりで原則1個、女性が35才以上の場合と、前2回不成功の場合にのみ2つまでとなっております)

良好胚が残っていれば凍結保存することをお勧めしますが、凍結保存を御希望でない方はお申し出ください。(詳しくは凍結保存の説明書をご覧ください)尚、卵巣が腫れすぎている場合や、内膜の状態が悪い場合は、1つも戻さないで良い胚を全部凍結することがあります。(「全胚凍結」と呼ばれます)

 凍結保存・解凍した胚は、新鮮胚移植(というのは採卵後数日で戻すことを言います)に比べ、妊娠率はほとんど変わりません。また奇形などの発生率はあがらないとされています。(詳しくは凍結保存の説明書をお読みください)(胚凍結保存は未だ100%完全な手技ではなく、すべてがうまくいったときにかなり元通りに回復できるというもので、元通りに回復しない胚も存在します。)


採卵の次の日より判定日まで、妊娠を助けるため毎日黄体ホルモンの飲み薬を12-3回、または膣座薬を寝る前に1回使っていただきます。(膣座薬は、使う前にパッケージごと握って暖めていただくと、表面が溶けて入れやすくなります。おうちにあるサラダ油などを使っていただいても、薬局に売っている潤滑剤を使っていただいても大丈夫です。

注射もあります。黄体ホルモンの注射を毎日することもありますし、卵巣の様子を見ながら卵巣から黄体ホルモンをださせるような注射をすることもあります。

 

採卵の約1週間後

 黄体ホルモンが足りているか採血をします。午前中にいらっしゃれば夕方には、夕方にいらっしゃれば翌朝までには結果が出ます。結果はお電話でお伝えできます。(黄体ホルモンが少なければ、注射をします。)

 

判定

採卵の2週間プラス23日後に妊娠判定を行います。

当日朝一番の尿をお持ちください(容器をお渡します)

 

判定が陽性の場合(妊娠したとき)

 黄体ホルモンの薬を続けます。約1週間後に超音波をみて、胎嚢の位置や数を確認します。また、反応は陽性でも流産に終ったり子宮外妊娠になる場合もありますので、しばらくの間は1週毎位に受診していただきます。

 妊娠3カ月で、当院での検診は終了となります。ご紹介元の病院、またはご希望の病院へ紹介状を書きます。

 

判定が陰性の場合(妊娠しなかったとき)

 1.凍結胚がある場合

ア)ホルモン補充周期での解凍胚移植 生理中から貼り薬などのお薬を使って、子宮内膜を整えて、内膜が充分に成長したら黄体ホルモンの薬を併用して戻します。妊娠したときにはしばらく(2ヶ月ぐらい)の間、薬を使い続けます。(この方法は欧米で人から卵子をもらう人のために考え出されて行なわれている方法です)良いことは胚移植の日の予定があらかじめ立つということです。

イ)自然周期での解凍胚移植 排卵日がはっきりとわかることが必要で、超音波をみたり尿検査をしたり、血液検査をしたりして排卵日を探り当てます。ときおり排卵日を見逃してしまったり、戻すはずの日が連休に当たって戻せなかったりします。

採卵をした次の周期は排卵を突き止めるのがかなり難しいので採卵の翌々月からにしています。

(自然)排卵の少し前においでください。

 2.凍結胚がない場合

最低2ヶ月はお休みして、そのあとはまたご希望の周期に次の治療をはじめます。

 

4)成績

 2010年当院で顕微授精は51周期行い新鮮胚移植は31周期、妊娠は4でした。

また、顕微授精による胚凍結/解凍胚移植を41周期行い妊娠は7でした。

 

5)費用

 顕微授精治療には現在のところ健康保険がききません。採卵の日に23万円、胚移植の日に5万円いただいています。良好な胚が残っている場合には、凍結保存料として5万円を採卵1週間後のホルモン検査の日にいただいています。(凍結保存胚の解凍移植には5万円、凍結保存延長料は1年間1万円です)(税別です)

 また、使ったお薬、診察料などはその都度実費をいただいています。

(別紙をご覧ください。)

 ロング法で注射がhMG150単位10日間、卵子が5つとれて、顕微授精。胚凍結がなくて、5日後に1つ胚移植をするというケースですと、1周期の費用が317900円になります.(胚凍結が加われば、367900円になります)

 アンタゴニスト法で注射がhMG150単位連日、卵子が5つとれて、セトロタイドを3回、顕微授精、胚凍結がなくて、5日後に1つ胚移植をするというケースですと、1周期あたりの費用は320400円になります.(胚凍結が加われば、370400円になります)

 

 「夫婦合算の前年所得(1月から5月までは前々年の所得)の合計額が、730万円未満の方」に(「所得」とは収入からいろいろな控除を引いた後の金額のことだそうです) 県などから(さいたま市、川越市など1部の大きな市では市が)「特定不妊治療費助成事業」で、助成金が受けられるかもしれません。(年令条件があります)

 待合いにパンフレットと申請用紙がおいてあります。詳しくは役所にお問い合わせください。

大泉町、太田市、伊勢崎市、館林市、みどり市、桐生市、板倉町、邑楽町、明和町、千代田町、玉村町、佐野市などには、県のものとは別に不妊治療に対する助成があります。市町村によって違いますが、所得制限がないことが多いです。

 

6)リスク

 顕微授精・胚移植治療による副作用、リスクには次のようなものがあります。

 

1.過排卵刺激には細心の注意を持って当たらせていただきますが、卵巣の反応によって、キャンセル、全胚凍結保存、卵巣過剰刺激症候群の発症などの可能性があり、入院治療などが必要になるかもしれません。

2.採卵による出血:超音波で見ながら針を刺しますが、超音波で見えないほど細い血管からでも出血することがあります。出血がひどいときは輸血、開腹しての止血手術が必要になるかもしれません。

3.採卵、胚移植による感染:よく消毒してから行いますが、人間の体からばい菌などを完全にいなくすることはできません。予防のため抗生物質の投与をしています。また精液は受精前に洗浄しますが、精液中の細菌やウィルスなどをすべて取り去ることはできません。顕微授精によって奥様に感染する可能性があります。肝炎の検査は全員受けていただきますが、ご希望が有れば、追加で梅毒、HIVの検査などをしますのでお申し付けください。(通常の性行為でもそのような可能性がありますが、いままでうつらなかったからといって、これからもうつらないというわけではありません。また現在検査できない病気もありえることをご了承ください。)

4.麻酔:血圧低下、呼吸不全などが起こることがあります。

5.卵巣過剰刺激症候群:卵巣の反応が良すぎると卵巣が腫れて腹水や胸水がたまったり血栓症になる可能性があり、入院が必要になるかもしれません。

6.多胎妊娠:双子や三つ子が妊娠すると、早産、未熟児、妊娠中毒症等の可能性が高くなります。(1つしか胚を戻さなくても多胎になることがあります)

7.顕微授精でも子宮外妊娠が起きることがあります。

8.通常の顕微授精ではお子さんに奇形がおきる確率は、自然妊娠とほぼ同等とされていますが、長期予後は不明です。

9.培精培養には細心の注意を持って当たらせていただきますが、不慮の事故等により、継続不能になった場合には、ご容赦ください。

10.お二人の精子と卵子を使いますので、お二人の遺伝子を受け継いだお子さんができます。精子が少ないなどの不妊の原因が遺伝子にある場合にはそれも受け継ぐ可能性があります。

 

7)代替手段

 精液所見の悪い方には獨協大学病院泌尿器科、群馬大学泌尿器科などをご紹介しています。 原因が特定されれば、治療方法があって、精液所見が改善して、妊娠に近づくかもしれません。

 精液中に精子が見つからないときは精巣上体や精巣に精子がいるか実際に針を刺したり、切ったりして確かめ、精子が見つかったらそれを凍結保存して顕微授精に使うことがあります。 当院ではできませんので、高崎のセキールレディースクリニックや、前橋の横田マタニティホスピタル、東京の木場公園クリニックなどに紹介をしています。

 

8)安全性の説明

 顕微授精というのは、他の方法でどうしてもお子さんができないために行なうことで、100%安全性が証明されたわけではありません。お子さんの長期予後(将来にわたって何もないかということ)についてもまだわかっていません。当院はじめ、日本産科婦人科学会傘下の施設では、この問題に取り組むために、積極的に状況を把握していこうとしています。生殖補助医療は単に妊娠させるだけの治療ではなく、妊娠・分娩の安全性をはかり、出産した児の長期健康状態をフォローアップしながら行う治療となってきました。

 

9)単一胚移植

 多胎を防ぐため胚移植は原則1個とさせていただいています。(日本産科婦人科学会の決まりで原則1個、女性が35才以上の場合と、前2回不成功の場合にのみ2つまでとなっております)

 

10)凍結保存の期間及び廃棄の条件

 顕微授精治療には(ある程度の)危険が伴います。特に多胎妊娠を避けるためには移植する胚の数を減らす必要があります。しかし良い胚があるのに残りを捨ててしまえば、うまく妊娠しなかったときにはまた1から危険を冒さなければなりません。移植しなかった良い胚を凍結保存しておき、うまく妊娠しなかったときに解凍して戻せば、その他の危険をほとんど冒すことなくまた妊娠のチャンスがえられます。 

 また、卵巣過剰刺激症候群は妊娠するとさらに悪くなることがあるので、これを避けるために得られた胚をすべて一時凍結保存して次の周期以降に解凍して戻す全胚凍結を強くお勧めすることがあるかもしれません。

 凍結保存・解凍した胚は、新鮮胚移植(というのは採卵後数日で戻すことを言います)に比べ、妊娠率はほとんど変わりません。また奇形の発生などの危険はあがらないとされています。(詳しくは凍結保存の説明書をご覧ください)(胚凍結保存は未だ100%完全な手技ではなく、すべてがうまくいったときにかなり元通りに回復できるというもので、元通りに回復しない胚も存在します。それでもなおこれを行なうのは、今回胚移植しない残りの胚を全部捨ててしまうことや、多数の胚を一度に戻すことよりもいろいろな点で好ましいことだからです。)

 凍結胚の保管は1年とさせていただきます。この期限を越えて保存の延長を希望される方は保管期限までに追加の保管料をお支払い下さい。期限を越えてお支払いのない場合、または下記の場合には胚を廃棄処分とさせていただきます。

 ア 夫婦が離婚したとき。

 イ 夫婦の一方が死亡/行方不明の場合。

 ウ 夫婦の一方が廃棄を申出たとき。

 エ 生殖年齢を超えたとき。

 なお、胚凍結、保存は解凍して移植することを前提にしていますので、もうこれ以上お子さんがいらないという場合はご連絡をお願いします。

 

11)カウンセリングの機会の提供

 当院には日本不妊カウンセリング学会認定のカウンセラーがおりますので、顕微授精実施前にカウンセリングをお受けになっていただきます。

 

12)日本産科婦人科学会への報告の義務と、成績の発表や学会への報告の際の個人情報の保護

   個人情報保護について 該当する皆様が県などの特定不妊治療費助成を受けるために日本産科婦人科学会に、学会への報告をしなければなりません。(これは県や市町村からの助成の条件ともなっております)個人のお名前は一切提出いたしませんのでご理解をお願いします。また学会発表などの際にも個人のお名前は一切出すことはありませんのでご理解をお願いいたします。

 

13) 凍結保存胚・配偶子について、天災または閉院など生じた際の対応

  お預かりした胚・配偶子の保存には全力を尽くしますが、天災・不慮の事故等により保存不能になった場合にはご容赦ください。

 院長の突然の事故などで、凍結保存胚が健全に保たれているのにもかかわらず、当院が機能不全に陥った場合には、残りの職員が日本産科婦人科学会、群馬大学医学部産婦人科教室などと連絡を取って、当院で顕微授精/解凍胚移植治療を継続できるように努めます。しかしながらそれがかなわなかった場合には前橋市の横田マタニティホスピタルに胚を移送、保存し、解凍胚移植治療を引き続き受けられるようにお願いしてあります。ご了承いただければ幸いです。

 

2017.510